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 ◇セ・リーグ 阪神1-5広島(2020年10月20日 甲子園)

 9回裏1死一塁で出番がきた阪神の代打・原口文仁には秘策があった。初球、広島・九里亜蓮が投球動作に入ると、軸足の右足を後方に引き、内角シュートを快打して中前に運んだのだ。

 右足を引いたことで内角に食い込むシュートも甘くなる。走者一塁で併殺狙いのシュートでくると読んでの打法だろう。見事に当たった。

 打撃の工夫とはこういうことをいう。それまで阪神打線は近本光司の2安打だけで、ほぼ無抵抗だった。本紙評論家の広澤克実はテレビ解説で「確かに九里は良かったが、あまりに打てなさすぎる」と嘆いていた。ベンチから観察していた原口が一つの手本を示したわけだ。

 右スリークオーターの九里の投球はシュート(ツーシーム)、スライダーを内外角に投げ分ける左右の揺さぶりが基本である。右打者なら詰まらされる内角シュートを打つのか、捨てるか。打つとしても普通だとジェリー・サンズの三ゴロ(2回裏)のように詰まる。狙うなら引っ張って三塁線を抜くのか、中堅から反対方向に軽打するのか。姿勢が問われる。

 広澤は早い時点から九里攻略について「本塁ベースを内外角半分に割り、打者はそのどちらかに狙いを定めるべきだ」と語っていた。

 原口は内角を、相手が得意のシュートを狙ったのだった。それも詰まらないように右足を引くという大胆な手を使った点を評価したい。

 誰か一人でも得意球を快打すれば、投手のリズムは狂う。掛布雅之は4番を打った現役時代「相手投手の決め球を打てば、攻略できる」と語っていた。現に、この夜も原口快打の直後、糸井嘉男も右前打して完封を阻止、九里降板に追い込んでいる。

 思い出したのは新庄剛志である。当時20歳、レギュラー定着となった1992年6月3日、旧広島市民球場だった。同じくシュートが得意の広島・北別府学に対し、投球動作と同時に右足を引いた。「シュートを狙おうと思って。あんなことしたのは初めてです。まぐれで打てました」と話したのを覚えている。

 当時本紙評論家の藤井栄治が<新庄の頭の勝利>と書いている。<シュートが「甘くなるとやられる」と続けてボール。ストライクを取りにきた外角直球を中前2点打した><工夫する打者は必ず大成する>。

 思えば、長嶋茂雄(巨人)も平松政次(大洋=現DeNA)の「カミソリ・シュート」を打つため、投球動作と同時にバットを短く持ち替えたそうだ。門田博光(南海=現ソフトバンク)はタイミングが合わない投手には打席内の後方から前方まで歩いていた。工夫が活路を開くのである。

 九里に対し、監督・矢野燿大も「あっさり」と表現した打線である。難敵攻略には大胆な工夫もいる。好例として、チーム全体で覚えておきたい一打である。=敬称略=(編集委員)




🐯代打の原口... 器用にスタンスを変えて ヒットを放つ!👍 #阪神タイガース #原口文仁 https://t.co/vRWDUWY9FF



@hagakuretora これ、すごいですね! キャッチャーならではの、内角を読み切った打ち方なんですかねぇ⁇



@hagakuretora すご〜い❣️ たったったん❣️てリズムとってる〜👀


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