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 まるで昨日のことのように思い出すという。それは、阪神の緒方凌介広報(28)にとって特別な瞬間。「野球をやってきた中で、トップクラスに幸せな一日でした」。あの日の衝撃が、胸に焼き付いている虎ファンは少なくないかもしれない。

 2018年3月3日。

 緒方が一躍ヒーローになったのは、昨季のソフトバンクとのオープン戦だった。チームは完封負け目前。九回2死で走者はなし。それに加えて、マウンドには守護神・サファテがそびえ立つ。絶体絶命の盤石だ。そんな戦況で、一矢報いたのが緒方が放った阻止弾だった。

 翌日のスポーツ紙で踊った一面。当日の新聞をめくれば、見出しはデカデカ「緒方サファテ撃ち 日本一守護神の直球をバックスクリーンへ」と飾った。先輩記者がつづった原稿を読み返す。「その瞬間だけ時間が止まったように、誰もが白球を見つめた」。息をのむ観衆、そしてナインたち。届け。緒方の思いが白球に乗った。

 うれしい一報は、すぐさま世の中に発信された。鳴りやまない電話とメール。家族からは…と尋ねると、静かに笑った。「それが連絡なくて(笑)。買い物行ってたみたいで、僕から電話して『おめでとう』ってだけ言ってもらいました」。浮かれやしない。緒方家の日常にあったのは「パパはこれくらいやれるんだ」-。話を聞いた私は、そう感じた。

 宿舎に戻ってからは、次の日の予習に明け暮れたという。次の対戦相手は、ソフトバンク・武田。「打つイメージをしながら準備、準備」。部屋で一人、データとにらめっこ。「まぁ4タコだったから、偉そうには言えないけどね…」と恥ずかしそうに笑うが、必死な姿は見る者の心を打った。その後2軍生活が続いても、引退して広報に立場を変えても愛され続けている理由だろう。

 改めて、懐かしそうに振り返った。1年ぶりに立ったヤフオクドームの地。「あのときは、どうせなら悔いの残らないようにってね」。今年の福岡遠征は2連敗。それでも4番・大山がついに復調弾を放った。明るい材料は、確かに光をともしている。

 「頑張ってほしいよね、純粋に。今まではみんなライバルだったからさ」

 広報に立場を変え、選手たちに寄り添う。祈るのは仲間たちの飛躍。見つめるその瞳は、ぬくもりを帯びていた。(デイリースポーツ・松井美里)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190305-00000068-dal-base

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