坂本龍馬に続く人材の輩出を願って創設された「第35回龍馬賞」の授賞式が15日、高知市内のホテルで開かれ、今シーズンをもって現役を引退した阪神タイガースの藤川球児さん（40）＝同市出身＝に賞が贈られた。引退後初めて高知に戻ってきた藤川さんは、式の後の会見で地元への思いや自身の生き方について語った。会見の一問一答は次の通り。【北村栞、松原由佳】

　――引退後初めて高知に戻ってきた印象は

　◆いつも毎オフシーズンに1度は帰ってくるようにしていました。今回は車で妻と帰ってきたんですが「いつもと違うね。故郷に錦を飾るというか、そういう気分で帰れるね」と。独立リーグでプレーしたときの自分とはまた違って、その経験を生かした上でもう一度プロ野球の世界で頑張ってきたので「みんな喜んでくれるんじゃないかな」と妻と話しながら帰ってきました。

　――県民に伝えたいことは

　◆何世代か通して旬な藤川球児を見せられたと思います。ある意味、2度プロ野球に入団したというか。皆様のおかげで頑張ることができました。全てが終わった10日は高知県からも表彰され、夢のような1日でした。高知県が自分を育ててくれたと思っています。改めてスポーツの力は大きいなと思いますし、これからも素晴らしさをつないでいくということを自分含めて県民のみなさんにはお願いしたいです。

　――藤川さんにとって高知とはどんな場所か

　◆ふるさとですね。普段の僕はスーツなんか着ないし、ひろめ市場にも行くし、居酒屋でお酒も飲む。県出身で県から離れた人間として、帰ってきたときにやりたいことはみんな同じだと思います。大人になってもっと見直したいところがたくさんありますね。

　――どんな「志」で現役生活を送ったか

　◆アメリカに行くまでは自分という野球選手をどう輝かせようかとそればっかりだったんですが、手術をして投げられなくなったときに日本でやっていた（テレビドラマ）「龍馬伝」の映像を見たんです。自分で道を切り開いて生きる坂本龍馬を見たとき、今の自分にぴったりはまるんじゃないかと思いました。そこからは迷わなくなりましたし、先のことを考えるようになりました。応援してもらいながら自分が子どもたちに何を与えられるか考えたときに「独立リーグに行こう」と。既成のものじゃなくて「自分で何かを切り開いていきたい」という思いを持てるようになりました。だから現役生活も自分から終止符を打てましたし、最後も僕ほど笑顔で辞めた人はいないと思うんですよ。なぜなら僕はこの先に自分の人生の希望を見つけることを求めたので。今が頂点じゃないし、そう思いながら人生が終わる、こんな幸せなことはないと思います。うまくいくところもいかないところも全て自分が切り開く、龍馬さんのそういったところに憧れました。龍馬さんは人生の師匠です。

　――現役生活22年間で背負ってきたものは

　◆責任。背中に乗っていたものは責任だと、今やっと言えるようになったかもしれないですね。若いときは「なぜ自分にばっかりこんな重い責任が来るんだ」と思っていましたが、いつの間にか楽しめるようになりました。たくさんの先輩に「全員に責任がいくわけじゃなくて、乗り越えられるから責任が来るんだ」と教えていただいた。自分の中では「（責任が）最初から乗っていても分かりません」と（いう気持ち）。それでも自分の人生を進めていく、という生き方に変わりました。

　――新型コロナウイルスで苦しむ人にメッセージを

　◆人生を送っていく間で、必ず自分に降りかかってくる災難はあるんですよね。東北や淡路の震災もそうです。そのとき、周りで起こっていることをいかに自分のこととして同じような思いができるのか。一緒になって支える、より力強く自分の人生を送る、ということで周りからは頼られる存在になりますし、そういった人が苦しむことが起きたときは周りが助けてくれると思います。自分一人で頑張りすぎず周りの力を借りて、余裕があるときは周りを広く見て感受性豊かに生きていく。自分はそういう風に生きています。

　――今後やっていきたいことは

　◆知事とも話しましたが、知事は関西と高知をつなぐことを目指していると聞きました。いつでも自分は協力させてほしい。大阪側でも高知側でも、例えば高知県主催の小中学校の大会に参加要請があればできるだけ参加したいです。自分がプロ野球選手と初めて握手したのも県主催の小学校の大会で、中畑清さん。「大きな手をしているなあ」というのが印象的で、自分がそういう存在になれるかは分かりませんが、そういったことがしたいし、自分を使っていただけるならこんな光栄なことはありません。