近本



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 「東京ヤクルトスワローズ2-4阪神タイガース」(23日、神宮球場)
 執念が上回った。阪神・近本光司外野手(28)が1点を勝ち越した直後の七回1死二塁で、右中間への大飛球をフェンス手前でジャンピングキャッチ。右肋骨(ろっこつ)骨折から復帰2試合目ながら、フェンスを恐れない好守で同点を阻止した。三回に死球を受けながら、五回には二盗に成功するなど気迫の全力プレーで、負ければ首位陥落の危機を救い、後半戦初勝利を呼び込んだ。
 悪夢も恐怖も振り払うように、走って守った。右肋骨の骨折から22日に復帰したばかりの近本が虎をけん引した。
 最大の見せ場は1点を勝ち越した直後の七回の守備だ。1死二塁で長岡が放った飛球は右中間最深部へ飛んだ。近本は快足を駆って懸命に背走。「高いところの方が(ボールに)近いので、とにかくジャンプで(捕ろう)と思っていたら(グラブに)入っていた」。最後はフェンス際で跳び上がって好捕する神業で、神宮の杜に詰めかけた虎党を大いに沸かせた。
 負傷した2日・巨人戦(東京ド)をほうふつとさせる好守だった。死球直後の守備で左中間への飛球を小さく跳びはねながら捕球。フェンスにぶつかってもボールを放さなかった。打球を追いながら、苦い記憶が頭をかすめなかったのか。「(脳裏を)よぎる前には捕っていた。捕ってからよぎった」と極限の集中力が上回った。
 二走はタッチアップで三塁に進んだが、抜けていれば同点の場面。岡田監督も「やっぱり失点防ぐというかな、こういうゲーム展開やからな、そういうの大きいよな」と賛辞を惜しまない。七回を無失点で切り抜け、直後の八回に2点を追加。勝負は決まった。
 三回には1死二塁の打席で小沢が投じた初球の直球が、近本の右脇腹付近に向かった。反応良く間一髪でかわしたが、ユニホームをかすめる死球に、肝を冷やした左翼席から怒号も飛び交った。
 プロ5年目を迎えた今季、開幕前に掲げた目標は記録や成績ではなく「とにかくケガをしないこと」だった。蓄積された疲労が5年目あたりから出てくるという西勇の言葉が念頭にあった。「どこかでケガしそうな自分がいる。そこを何とか取り除けるように」と取り組んできた。
 危惧は現実のものとなったが、肉離れなどとは異なり、死球による骨折という不可抗力の負傷だっただけに「気をつけるものでもないし、思うことは何もない。僕の時間の流れはそのままなので、もしケガがなかったらという思いもない」。落胆も悔恨もなく、現状を受け入れつつ復帰を目指した。
 五回には四球で出塁し、続く中野の初球で二盗に成功。復帰後は無安打で、自己ワースト23打席連続無安打ではあるが「足はめちゃくちゃ動いていた」と完全復活は近い。背番号5の献身的な働きが後半戦初勝利を呼び、首位を死守。「今日勝ったのはめちゃくちゃ良かった」。勝利に沸くグラウンドに、近本の晴れやかな笑顔がよく似合った。
 ◆近本、右肋骨骨折VTR 近本は7月2日・巨人戦(東京ドーム)の七回に巨人2番手・高梨から死球を受け右肋骨を骨折。ただ、死球直後、その場で倒れ込みしばらく立ち上がれなかったものの、交代せずそのまま出場を続けた。直後の七回の守備では、巨人・吉川が放った左中間への飛球をジャンプして好捕。体をフェンスにぶつけながらの懸命なプレーだった。

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