◇セ・リーグ 阪神2ー1中日(2021年6月22日 バンテリンD)
あと数センチ…だったか。阪神・佐藤輝が描いた放物線は、バンテリンドームの左中間フェンス最上部に直撃。98年高橋由伸(巨人)に並ぶ2リーグ制以降の新人左打者最多本塁打の19号はお預けとなったが、天敵と言えた「名古屋の大野雄」攻略の口火を切った。
「入ってくれと思いながら走っていましたけど、バンテリンドームなので仕方がない。あそこから先制につながったのでよかった」
2回1死無走者。4月27日の初対決で7号弾を浴びせた大野雄との再戦で、再び痛烈な一撃を見舞った。カウント1―2からの148キロ直球を強振。逆方向への痛烈な打球は、惜しくもフェンスオーバーとはならず、矢野監督のリクエストも実らなかった。それでも直後の糸原と梅野の適時打を呼び込んだ。バンテリンドームでは13年8月23日以来2860日ぶりに大野雄に黒星を付けた勝利に、大きく貢献してみせた。
この日は母・晶子さんの49歳の誕生日だった。父の日だった20日に18号を放った際、父・博信さんは「自分の誕生日にも打ってくれたし、22日は妻の誕生日なんで、いい前祝いになりました!」と喜びを口にしていた。そして、前祝いで済ませることなく、節目の当日にも結果を残した孝行息子。食が細かった学生時代、1日5食を取るために工夫を重ねてくれたおかげで、今の1メートル87、94キロの丈夫な体がある。心身両面で自らをサポートしてくれた母へ、感謝の一打を届けてみせた。
9回2死では谷元から8球粘った末に右前打を放ち、3月27日ヤクルト戦と並ぶ今季最高タイの打率・286に上昇。18本塁打、46打点と合わせチーム3冠に躍り出た。「粘って出塁することができた。いい打席が増えてきている」と佐藤輝。指揮官からも「最後に1人出るか、出ないかですごく違う」と称えられた。周囲の予想を上回り続ける大器の伸びしろは、とどまることを知らない。(阪井 日向)