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 矢野燿大監督(53)が指揮を執る阪神と高津臣吾監督(53)が率いるヤクルトの3連戦は、今年のプロ野球の開幕カードの中で、注目のひとつだった。この野村チルドレン対決は、高津ヤクルトの3連勝に終わったが、この結果に、名将と呼ばれた故野村克也監督の言葉がよみがえってきた。

 私は1992年、野村ヤクルトが初優勝したときの担当記者だった。キャンプ、オープン戦、公式戦、日本シリーズを通じて、数多くの名言、格言を聞いたが、そのひとつが「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉だった。

 偶然で負けることはないという意味で、ノムさんの名言だと思っていたが、実は出典があることを後に知った。肥前・平戸藩の藩主で「心形刀流」の達人だった松浦静山が剣術書『常静子剣談』の中にこの言葉を記しているという。

 プロ野球のシーズンは143試合。優勝するチームでも50敗以上はする。開幕3連敗は確かに痛いが、長いシーズンを考えれば大騒ぎする数字ではない。だが、「負けに不思議の負けなし」という試合が多いのは、後に致命的となる。

 開幕戦でカイル・ケラーのストッパー起用には、まさにその言葉が当てはまる。ケラーは開幕戦で、1点リードの九回に登板。山田哲人に同点ソロ、ドミンゴ・サンタナに勝ち越し2ランを浴び、敗戦投手となった。

 年間を通じて一度も痛打されない守護神などいない。だが、いきなり2年連続セーブ王に輝いたロベルト・スアレスの後任として起用してもよかったのだろうか。

 ケラーは新型コロナウイルス感染症の影響で来日したのは3月6日。チーム合流は3月10日で、オープン戦での登板はわずか2試合。2回、打者8人に対して2安打2三振の防御率は0・00だが、日本球界に慣れるにはあまりに実戦経験が不足していないだろうか。

 阪神の前に3年間、ソフトバンクでもプレーしていたスアレスならこの日程、実戦登板でも計算が立つ。スアレスは阪神在籍の2年間で、113試合に登板し4勝2敗67セーブを挙げ防御率1・65だ。もちろん他球団の選手のデータや癖も頭に入っているだろう。だが、現状のケラーを、いきなりスアレスのように「勝利の方程式」に組み込むのは酷な状況だ。

 本来なら、ストッパーとしてではなく、もう少し楽な場面で起用して実戦経験を積ませてからでも遅くはない。

 巨人の大勢はルーキーながらストッパーに起用され、新人としてはNPB史上初となる開幕から連続セーブを挙げた。これは原監督以下首脳陣がキャンプからじっくり調整させて適性を見極め、オープン戦での内容、結果を踏まえた上での配置だ。今後、打たれてチームが敗れることもあるだろうが、決して「不思議の負け」にはならない。

 矢野監督も師の言葉を思い出し「不思議の負け」を減らしていくことが、浮上の近道なのではないか。=敬称略=(デイリースポーツ・今野良彦)

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