【球界ここだけの話】
何百球、何千球と投げてきたなかで、忘れられない一球がある。昨季、セットアッパーとしてブレークした阪神・湯浅京己投手(23)が振り返った2022年のベストボールは、5月5日のヤクルト戦(甲子園)での山田に対する直球だった。
「山田哲人さんから空振り三振を取った球ですね。投げた瞬間、打たれる気がしなかったと言ったら言い過ぎかもしれないですけど、感覚的にめちゃくちゃよかった」
一進一退の緊迫した展開だった。2―2で迎えた八回に登板。ランナーを出しただけでも流れが相手に傾きそうな状況で、誰よりも強気だった。先頭の青木には150キロ超の直球を3球続けて右飛に打ち取ると、続く山田にも直球勝負を貫いた。高めに真っすぐを2球続けて追い込み、最後は外角低めに153キロをズドン。空振り三振に仕留めた3球目が、シーズンで一番の手応えだった。
「(感触が)めちゃくちゃよかったというのは覚えています」
2死とした後に同級生の4番・村上を四球で歩かせたものの、最後はオスナを見逃し三振に。勝敗を左右する重要な局面でゼロでしのぎ、サヨナラ勝ちへの流れを作った。
そんな成功体験を積み重ねて自信を深め、セットアッパーとして地位を確立。最終的に59試合に登板して2勝3敗、防御率1・09、43ホールドと好成績を残した。
今年の守護神最有力と目される若虎の最大の特長は、なんといっても奪三振率(9イニング平均の奪三振数)の高さにある。昨季は10・40(58回を投げて67三振)と高水準で、まさにストッパー向き。投手の醍醐味(だいごみ)でもある三振について「気持ちがいいし、歓声も大きい。だから最初の方はうわぁってなってました」と語る。
伸びのある直球と大きく落ちるフォークを武器に中継ぎとして才能を開花させ、3月開催のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場する日本代表メンバーにも内定している。これからさらに追い求めるのは、昨年のベストピッチを超える至極のストレートだ。
「自分のよさをもっと伸ばしていければ、バッターからしたら見たことのないボールになると思う。そうなれば自然と打ちづらくなるんじゃないかな」
ダイヤモンドのように少しずつ丁寧に研磨し、自分の球を輝かせる。自信と努力が詰まった直球で、これからも強打者たちから華麗に三振を奪っていく。(織原祥平)
https://news.yahoo.co.jp/articles/3c665779c6d4d0fe2d745828d290dd146671e37a